いまだ社会に蔓延する困った問題。もし、被害にあったらどう対処すればいいの?泣き寝入りしないためのセクハラ対処法、しっかり覚えて立ち向かおう!
1980年代、女性の社会進出とともにアメリカから輸入された言葉『セクハラ(セクシャルハラスメント)』。この言葉が1989年の流行語大賞になり、社会に広く浸透しました。テレビや雑誌でこぞって取り上げられ、小学生男子までもが「きゃー。セクハラで訴えるわよ」と冗談を言ったものです。当時は、「お尻をさわられた」「肩をもむふりをしてボディータッチされた」など、わかりやすいイメージで認識されていました。しかし、2007年に改正男女雇用機会均等法が施行されたことで、以前より規制が厳密に。今まで女性に向けられていたセクハラ規制の対象が、男性にも適用されるようになったのです。つまり、「部長のメタボ腹見たぁ~?男だったらシャキッとしてよ」なんて言おうものなら、「なんだねきみは、セクハラで訴えるぞ」と部長に訴えられる可能性だってある、ということ。おちおち部長のグチも言えない世の中になってしまいました。そこで、「自分が加害者にならないため」という意味も含めて、セクハラの防止策、対応法を解説していきたいと思います。
セクハラとは
セクシャルハラスメントとは、「性的いやがらせ」という意味で、相手の意に反する性的言動や相手の望まない性的言動のこと。改正男女雇用機会均等法の定義を噛み砕くと「職場での性的な言動により、被害を受けた従業員が嫌な思いをし、それによって働く環境や条件が悪くなること」を指しています。しかし、その言動がセクハラになるのかならないのかは、線引きが難しいところ。セクハラかどうかを判断する場合、「相手の意に反する」「相手の望まない」という点がとても重要になってくるのです。
セクハラの種類あれこれ
対価型セクハラ
地位が上の人がその立場を利用して部下や従業員にセクハラを行ない、それを拒否したり従わなかったりすると、解雇や降格、減給などの不利益を与えることを対価型セクハラといいます。
環境型セクハラ
性的な言動によって就業環境が不快なものになり、就業意欲が低下したり、苦痛に感じて業務に専念できないなどの支障が起きることを環境型セクハラと言います。具体的な例は以下の通りです。
環境型セクハラ具体例
行為によるセクハラ
身体をさわる、性的関係を要求する、手を握るなど。
性的な発言・言葉によるセクハラ
性的な冗談を言う、性的なからかいの対象にする、わいせつな言葉をかける、性に対してプライベートなことを言ったり聞いたりするなど。
食事やデートにしつこく誘う
相手が嫌がっているのに何度も食事に誘う、ふたりきりになるように仕向けるなど。
性的な情報を流す
卑猥なことを言う、性的な会話を聞かせる、性的なニュースやネタを話題にするなど。
女性軽視につながる発言
「若い女性が入れたお茶はおいしい」「女には無理だ」「お酌しなさい」「キミでは話にならない」などの発言。「うちの子」「おねえさん」「お嬢さん」などの呼びかけ。
性的な画像を見せる
ヌード写真・カレンダー・ポスターを貼る。職場のパソコンでわいせつな画像を見る。セックス記事が載っているスポーツ紙・雑誌を人前で広げて読むなど。
同性へのセクハラ
同性同士でも、性行為を強要したり、嫌がる相手にわいせつな話を聞かせたりすればセクハラに当たります。また、同性愛志向の人に「ホモ」「レズビアン」などと呼ぶのもセクハラになると考えられます。
男性も対象に
改正男女雇用機会均等法では、セクハラの対象者は男女になっています。性的な関係を要求する、しつこく食事に誘う、個人的な性的体験を聞き出す、性的なからかいの対象にされるなど、これまで女性が受けてきたものと同じ行為が男性に対して行なわれた場合、セクハラとして認められます。いずれにしろ「相手の嫌がること」を基準に判断されるのは同じこと。男性も女性も、職場での言動には注意が必要です。
≪男性に対するこんな言動に注意!≫
- 「男らしくない」「ハゲ」「デブ」などの暴言
- 「じじい」「ぼく」「ぼうや」などの呼びかけ
- 露出度の高い服を着ることで男性に不快感を与えること
セクハラを予防する
セクハラ行為は、相手の欲望によって行われるので、いつ誰が加害者になるか予想がつきません。普段からセクハラにあわないように対策をしておくことが重要です。
セクハラ防止7か条
- 「性」を強調しすぎない
- 夜、ふたりきりで飲食に行かない
- 取引先との接待は複数人で行なう
- 誤解されるようなお世辞は言わない
- 危ない雰囲気を察知したら、相手の家族の話をする
- 露出度の高い服は避ける
- その場でノーという
セクハラ被害を受けたら
セクハラの被害を受けたら、泣き寝入りせずに第三者に相談しましょう。相談するときは、自分が受けた被害について整理し、証拠となるものがあれば用意します。精神的な後遺症がある場合は医師に診断書を書いてもらいましょう。感情的になると自分の言い分がきちんと伝わらないばかりか、思わぬ誤解が生じることもあります。冷静に説明するように心がけましょう。
証拠をそろえる
証拠記録として必要な内容
- いつ、どこで、だれから、どういう行為を受けたかという記録
- 被害を受けたときにとった自分の行動を記録
- 自分の行動に対して相手はどうしたかを記録
- 目撃者がいたかどうかの記録
こんなものも証拠に
- 相手からのメール・手紙
- 一方的にもらったプレゼント
- 相手との会話を録音したテープ
こんなところに相談しましょう
会社の相談窓口
セクハラが起きたとき、会社は相談窓口を設けて担当者を置くことが義務付けられています。会社が行なっている措置内容を確認し、自分に不利益が生じないのであれば、まずは会社の窓口に相談してみましょう。
労働組合
会社の対応に納得がいかなかったり、対応してくれなかった場合、労働組合に相談し、交渉を委ねることができます。ひとりで会社相手に交渉するよりも、組合のサポートがあれば心強く、スムーズに話が進みます。
行政機関
全国の労働局には雇用均等室が設置され、セクハラ相談に応じるシステムが整っています。電話予約ができ、相談料は無料。専門の相談員がさまざまなアドバイスをしてくれます。また、労務省の総合労働相談コーナーや各地方自治体でも労働相談センターなどの機関を設置しています。
弁護士
もっと踏み込んだ相談や解決方法を考えるならば、弁護士に依頼するのがよいでしょう。加害者や会社と示談や和解で解決する場合も、法律面のサポートは必要になります。
NPO団体
NPOとは、ボランティアなどの社会貢献を行なう民間団体です。弁護士、税理士などの法律関係の専門家が集結してサポートしていることが多く、相談の内容や今後の希望に即したアドバイスをしてくれます。
相手の心を揺さぶる心理作戦なら
相手に謝罪や損害賠償などを請求するときには、内容証明郵便で文書を送る方法をとるのが確実です。内容証明郵便とは、だれが、だれ宛てに、どんな内容の手紙を、いつ出したのかを郵便局が公的に証明してくれるもの。3枚ひと組で、1通は相手方へ、1通は差出人用、1通は郵便局で証拠として保管されます。これを送ることで、相手に対し「私は闘う気ですよ」という意思表示になり、心理的な圧力をかけることができます。また、後日裁判になった場合に、相手に明確な意思表示をしたことの証拠となります。家庭法律書を参考にすれば自分でも書けますが、裁判を前提とする場合は司法書士や弁護士に依頼しましょう。
欠勤・退職する場合の注意
欠勤する場合に注意すること
労働者の個人的な事情による事故や病気で休職する場合は、原則無給になりますが、「使用者の責に帰すべき理由による休業の場合は、平均賃金の6割以上の休業手当を、使用者がその労働者に支払わなければならない」と労働基準法に定められています。職場でおきたセクハラが原因で精神障害を患い休業する場合には、休業手当をもらう権利があります。
退職するように追い詰められたら
セクハラの被害者なのに不当な扱いをされ辞めるしかない場合、金銭面だけでも不利益を挽回したいもの。まず、自ら退職届を出さないことが重要です。離職票に、「会社都合」もしくは「解雇」と記入してもらうように求めましょう。解雇ということになれば、会社は少なくとも30日前に解雇の予告をするか、30日以上の平均賃金を支払う必要があります。また、会社都合で退職する場合のほうが、退職金の金額が高くなる場合があります。さらに、失業保険も、会社都合なら3か月間の待機期間はなく、支給日数も多くなります。
終わりに
細かな規制があるとはいえ、実際には会社の雰囲気でなんとなくお茶くみをさせられたり、会社の人との関係がフレンドリー過ぎて、踏み込んだ話題が平気で飛び交う、などといった現実もあります。それでも本人が不快な思いをしないのであればそれほど問題ではありません。でも、世の中には上司からのセクハラを拒否したことで不当な扱いを受けたり、たび重なるセクハラによって精神的な苦痛を味わっている人もいるのです。さらに裁判になれば、こちら側もプライバシーにかかわることを聞かれ、2度キズつくことに……。いちばん理想的なのは被害に合わないこと。セクハラはNOという毅然とした態度を持つと同時に、職場人と良い人間関係を築くことが大切です。